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ここで待ってるから。
第29章 ここで待ってるから。②
「な、なんで?」

 部屋に入ってきたその人は、私の対面に座り静かに笑う。

 優しい微笑みに戸惑いながら、言葉を探す。

 相手は言葉を発しない。

 そこに座り、私をみつめる。

 真っ直ぐな視線を離せないでいる。

「…どうして?」

 それ以外に何と聞いたらいい?

 なんて、ドラマ?なんて、小説?

「…まぁ、理由なんてあとから取って付けたって、たいして問題のない事ばかりだよ。」

 クスクス笑うこの人の私をからかう表情は楽し気で、悪意は無いのはわかっている。



「…守。」



 十歳年上のいとこの東守(あずままもる)だった。

 村役場に勤める、まぁ確かに公務員。

 えっと。でも、なんで?

「なんで?どうして?…しか、言葉が出ないかな?」

「う、うん。あ、だ、誰かの付き添い?そうよね?」

 目の前にいる守は、ただ私をみつめている。

「…嘘。」

「嘘じゃないよ。周りがあまりにも結婚しろとうるさいものでね。なら、橙子となら良いよと冗談で言ったらこうなってしまったよ。」

 サラッと大変な告白をされてるんですけど。

「い、意味わかんない。」

「…冗談で言ったけど、改めて思えばそれでもいいかなって。小さい頃から知ってる仲だ。今更、何も取り繕わなくていい。」

「いや、いや。そう言う訳にはいかないでしょう。確かに、親戚として付き合いはあったけど…。私、守の事知らない。」

「それは、これから知ればいい。」

 ちょっとだけ冷たく放たれた言葉に衝撃を受ける。

 守って、こんなだったかな?

 いつも、周りの意見をまとめたり喧嘩している子供がいたら諭したり。

「そ、そうじゃなくて…。私の気持ちとか、守の気持ちとかは…。」

「世間一般のお見合いや婚活パーティーでだって、まずは出会いからじゃないのか?そこから、お互いを知る。」

「…でも、今は違うでしょ?はじめて知り合う訳じゃないし。」

「なら、尚更好都合じゃないか。」

 ハッ、と息を飲む。

「お互い、いとこ同士で特に嫌いな所もなく生活習慣や二人の性格なんてとっくに知っているんだから。」

 守の言葉に何も言い返せないでいる。

 だから、夏だってすんなり受け入れることができたんだ。

 小さな頃から一緒にいたんだもの。

 夏の性格も、夏の癖も全て受け入れられた。
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