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ここで待ってるから。
第29章 ここで待ってるから。②
 守は店側が用意した、お茶を飲む。

 つられて、私も飲み干す。

「…橙子。」

 少しだけ難しい顔をしながら私に話しかける。

「ん?」

「…もし、今誰とも付き合っていないなら本気で考えて欲しい。」

「…前に、守に聞いたよね。覚えてる?」

「覚えているよ。結婚する気があるのか、無いのか。あの時は無い…と答えたかな。」

「それなのに、どうして?今になって?」

 守は静かに笑う。

「…ちょっと待ってて。」

 そう言って立ち上がり、部屋を出る。



 守と結婚…。

 考えられない。

 でも、夏の事を話すことは出来ない。

 夏を好きになっても、どこかやっぱり抵抗がある。

 いとこで年下。

 私、本気じゃないのかな。

 夏の事を堂々と話せない自分がいる。


 しばらくすると、守は小さな包みを持ってくる。その、布にくるまれた箱を机の中央に置く。布をそっと外す。

 中には見慣れた箱が現れた。

「…これ。」

 手を伸ばし、箱に触れる。

 ずっと実家に置きっぱなしだった、大切な宝箱。

「懐かしい。」

 中を開けると、がらくたや綺麗な石が入っていた。どれもこれも大切な物。

 私の一番の宝物。

 全部、夏が私のためにくれた宝物。

 小さい夏が、一生懸命集めた宝物。

 すっ、と涙が一筋流れる。

 夏が愛しい。

 夏に会いたい。

「…やっと、素直になったな。橙子。」

 守は手を伸ばし、私の頬に触れる。

 大きな手は私を包み、親指で流れた涙をふきとる。

 温かい手は昔と変わらない。

 みんなを優しく包んでくれる、あの頃のままの守がいた。

「守、私…。」

「泣かなくていいから。迷子になった二人は、お互いを探しまわったら、きっとまた迷ってしまうから…。だから、その場で待っていただけなんだよね?」

 その、言葉が胸に響く。

 うろうろするよりも、その場で待っていよう。

 いつか、見つけてくれるのを待っていよう。

 私も夏も、そんな事を別々の場所で思っていた。

「…まったく。賢いんだか、子供なんだか…。」

 守が、軽く溜め息を付く。

「二人共、動かなかったら一生会えないじゃないか。」

「…うん。」

 視線を箱の中に戻す。

 そう言えば、もう一つ大切な物があったはず。

 箱の中を探してみる。
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