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ここで待ってるから。
第6章 未来の迷図。
〈涼介の領分②〉


 空港からタクシーで一時間。帰ったら、日曜日は殆ど仕事でつぶれるだろう。
 それでも、少しの時間でも橙子と過ごしたくて部屋に呼び出した。

 部屋に着くと、薄暗い中テレビがつけっぱなしになっている。
 橙子の姿に、思わず笑う。
 ソファに寝転がり、軽くいびきをかいている。
 周りには飲み干したビールの缶が三本分転がっている。それも、500ml。
 おい、おいどんだけ底なしだ。
 空き缶を片付け、ダイニングテーブルを見ると煮物とメモが置いてある。

『筑前煮と冷蔵庫に野菜のマリネ入ってます。お仕事、お疲れ様。』

 席に着き、筑前煮を食べる。
 椎茸や鶏肉の旨味がしっかりしていて、なかなか美味い。野菜がたくさん入っているのが嬉しい。
 メモを見ながら、少し考える。
 橙子とこの先の行方。
 家庭を持つ事にかなりの不安がある。
 自分が育った環境は今の自分の根本。父と母の不仲。父と愛人、母の不倫相手。
 多分、この先誰とも結婚はしないだろう。
 橙子となら…と思う時もあるが、どうだか。
 
 食べ終わり、荷物を解く。
 月曜日の会議に間に合わせるため、資料の整理を始める。
 ソファ近くのローテーブルに、仕事を広げ橙子の肩にそっと触れ体温を感じる。
 ベッドルームから薄い肌掛けを持ってきて橙子にかける。
 寝息を背後に仕事を始める。

 途中、橙子が目が覚めたがあっと言う間に夢の中へ。

 自分もそろそろ寝ようと、橙子を抱きかかえベッドに寝かせる。腕枕をし、その髪に顔を埋める。しばらくして、疲れのせいか深い眠りに落ちる。

 

 明け方、目を覚まし橙子の身体の温かさに欲情する。
 横で眠る橙子の服を脱がし、白い肌に指を這わせる。薄暗い中、身体を見ると赤い印が点々と付いている。
 それは、キスマーク。
 誰が、付けた…あの従兄弟あたりだろうな。

 寂しさからか。
 自分への愛情がなくなったか。
 無理矢理か。

 真意は分からないが、不愉快だ。

 橙子はわたさない。

 橙子を起こす。
 多分、今自分の本心を橙子に伝えなければ。この胸の奥にある燻る想い。
 それは、とっくの昔に消えてしまった夢幻の感情。
 儚く脆く、形の無い気持ち…。

 愛してる。

 硝子のような頼りない、綺麗な感情。
 橙子を抱き快楽の波に飲み込まれていく。
 
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