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ここで待ってるから。
第7章 夢の後先。
 日曜日、夜帰ると夏が着替えやノートパソコンをスーツケースに入れて荷造りしていた。

「今週は会社で寝泊まりするから。」

「どうして?」

「うん、色々諸事情。」

 あ、あれ。なんで、私の顔見て話さないの?
 その苦笑いとか、よそよそしさって何?
 夏は荷物を玄関に運び、ケータイをいじる。着信があったようで、相手の話に頷いている。

「…今から先輩が迎えに来るから。」

「…そうなんだ。」



 しばらくすると、チャイムが鳴り夏が玄関に向かう。

 背の高いスラっとした女性が玄関に立っている。

「はじめまして。私、水瀬と申します。夏に…東君にはいつもお世話になっております。」

 水瀬さん。
 大学の先輩って…女性だったんだ。
 私より年下なんだろうか。タイトなスーツを着こなして、ショートカットで活動的。嫌味の無いシンプルなメイクは目鼻立ちを際立たせている。
 スッピンでもかなりの美人。
 
「…いえ。えっと、上がってお茶でもどうぞ。」

「ありがとうございます。でも、遅い時間ですし少し急いでいますので。東君、荷物はこれだけ?」

 夏は靴を履き、荷物を持つ。
 水瀬さんも一つ持つ。

「はい、とりあえずこれだけです。」

「先に下に降りてるから。では、夜遅く失礼致しました。」

 水瀬さんは足早に玄関を出る。
 夏も靴を履き顔を上げわフッと何か言いたそうな表情をする。

「時々、荷物取りに帰ったりするから。」

「う、うん。」

「…やっぱり、良くないよね。」

 夏は真剣な顔で私を見る。

「このまま、橙子さんの側にいたら橙子さんの幸せを壊すことになる。俺、彼氏がいようが関係無いくらい橙子さんを抱きたい。離れたく無い。自分だけのものにしたい。」

 言葉を選び、少しの沈黙。

「…それは、橙子さんからしたら重荷でしか無いよね。」

「だ、だからここを出て行くの?あの、水瀬さんの所に行くの?」

 私は何を言っているんだろうか。
 
「…橙子さん。俺、そんなに人間出来てないから。この先、嫉妬でおかしくなっちゃうよ。…地元で年に何回か会うイトコに戻ろう。俺の好きって言う感情は、姉弟の好き…だから。」
 
 私の頭の中には引き止める言葉しか浮かんでこない。でも、それは夏を縛り涼介を傷つける言葉。
 
「俺は側にいない方が、上手くいくから。」


 
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