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ここで待ってるから。
第7章 夢の後先。
 麻婆丼に春雨サラダを作るも、よくよく見るとかなりの量に。いつの間にか、二人分を作るようになっていた。
 自分の分を取り、テーブルに着く。
 テレビをつけて大して面白くも無いバラエティ番組を見る。小さなため息をつき、ボーッとしていると玄関のドアが開く音がした。

「…橙子さん、ただいま…。」

 かなりやつれた夏が入ってきた。

「お、おかえり。」

 なんの覚悟も無い私は声がうわずり、驚く。
 夏はソファに横になり、軽く目を閉じる。

「夏?…寝たの?」

「…起きてるよ。やっと、帰れた…。」

 上半身を起こし、ネクタイを緩める。頭をポリポリかいて大きな欠伸をする。

「うちの出版社、かなり小さい出版社なんだ。事務員と俺入れて七人。先週、有名人がうちの出版社から出している絵本をテレビで取り上げたもんだから、反響すごくて受注やら製本手配やらで殺人的な激務だったんだ。」

 夏は私の隣に座り、春雨サラダをつつく。

「…美味しい。橙子さんの料理、大好き。」

 ぺろっと平らげ、ニコニコしている。

「先輩が…水瀬社長もかなり慌てて、階段から落ちて腕ヒビ入っちゃったり。」

 そ、それは激しいです。
 
「増刷するのに印刷会社をフルで動かす為に事務員のおばちゃんや、いつもは午後からしか動かない営業の人とか…凄くみんな大変なんだけど、生き生きしていて…うん、楽しかった。」

 食後にお茶を淹れる。二人でゆったりしながら、夏の話を聞く。

「…取りあえず、交代で家に帰って休もうって話になったから帰って来た。明日、金曜日の遅くにはまた会社に行ってしばらく帰れない…。」

「そっか…。大変な仕事だけど、夏が楽しいならいいんじゃない?そうやって、色んな経験して沢山の人と関わればその分、自分の糧になる。」

 私は目の前の従兄弟にそっと笑いかける。夏は静かに耳をかたむける。

「…俺。」

 湯呑みを両手に収め、その温かさを感じる。

「夏。側にいない方がいい…とか、もう言わないで。」

「…橙子さん。」

「私の中で、まだ何も答えなんか出てないけど…私は夏ともっと話がしたい、笑っていたい。」

 私が今、夏に出せる曖昧な答え。
 
「だから、もう少しここにいて。」

 夏は少し考えて、困った顔をする。

「俺のことあんまり信用しちゃダメですよ?」
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