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ここで待ってるから。
第8章 眺めの良い場所。
 私はなかなか言葉が出てこない。以外と十年の壁は乗り越えられない。紗千香は含み笑いをし、部屋を出て行く。

「…祐希、おめでとう。」

「…うん。まぁ、結局出来婚ってヤツ。」

「今じゃそんなの気にしないものよ。」

 祐希は苦笑いする。

「…ねえ。祐希にとって、私ってどうだった?」

「どうっ…て。そうだな…ずっと、小さい頃から一緒だったからあんまり気がつかなかったんだ。高校の時、別れてから気がついた…。」

 少し言葉を選び、はにかむ。

「橙子は、いい眺めを見せてくれる一本の木。」

 私は祐希の言葉を考える。

「春には花が沢山咲いて、夏には青葉を繁らせ。秋には赤や黄色の葉で彩り、冬は春を迎える為にじっと耐える。その木は大きくて、天辺まで登れば周りを一望できる眺めの良い場所なんだ。地中には根を張り、虫や動物の安らぐ場所。」

 祐希は私の手を取る。そのまま、引かれ祐希に抱きしめられる。

「お前って凄い女なんだよ。…こんな、女滅多にいない。なのに俺は手放したんだ。もっと、すがればよかった。もっと、引き留めたらよかった。ずっと、ずっと後悔していた。今でも…。」

 抱きしめる力がつよくなる。
 私も祐希も若かった。
 私は別れたのは沢山の選択の一つで何も後悔はない。でも、この人はずっと後悔の中で生きてきてしまったんだ。

 夏にはこんな辛い思い、させたくない。

 何十年と後悔で苦しむ夏なんて見たくない。

 私は…夏が好きなんだ。
 涼介も好きなのに、夏も好き…それは、答えなんて出るわけない。私の中にある、平行線の感情。交わりもしなければ、一本になる事のない感情。

 夏も涼介もそれを受け入れてくれるのかな?

 受け入れてくれなくても、私が選択した未来に何も後悔はしない。

「…祐希、ありがとうね。」

 そっと、背中に手を回しさする。

「あの時、初めて祐希に抱かれてよかったと思ってる。何の後悔もなかった。なのに、祐希はずっと苦しんでいたなんて…ごめんね。」

「橙子…。」

「…幸せになってね。」

「うん。橙子も…幸せに。」

「うん…。」



 披露宴はつつがなく終わり、私は静かに会場を出る。フロアでケータイをかける。
 すぐに夏が出た。

「終わったから…。うん、外で待ってる。」

 静かに、外に出る。

 







 
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