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ここで待ってるから。
第8章 眺めの良い場所。
 夏の車に乗り、時間を見る。二十時過ぎ。

「ねえ夏、少し話がしたい。」

「うん?家じゃ駄目?ファミレスだったら、この先ないですよ?」

 自分でも何か吹っ切れたみたいに、身体が夏を求めてる。周りは郊外、山の中を暗闇の中走る。そのスピードは私の中の高鳴りと一つになり、加速する。
 
「…じゃあ、山の展望台連れて行って。」

 山道をしばらく走ると、広い駐車場に着く。周りには車はなく暗闇の中、青い街灯が所々灯っている。
 夜の風はかなり冷たいけど、二人外に出る。
 この展望台から街の明かりが、眼下を彩りキラキラと宝石の様に輝く。
 
「どうしたの?」

「…嫌だったら、ちゃんと嫌って言ってね。」

「ん?うん。」

「私は涼介が好き。」

 隣で立つ夏の顔が少しだけ、揺れる。
 それは寒さからか、私の言葉かはわからないけど眉を寄せる。

「でも、夏のことも好き。」

 冷たい風が二人を撫でる。

「…私はどちらかを選ぶ事が出来なかった。二人から離れれば答えが出ると思ったのに。結局、私の中の二人は一人一人、大切な人になってたの。」

「…うん。」

「それでも…それでも夏は私を好きでいてくれるなら。側にいて欲しい。それが、許す事ができないなら、もう一緒には暮らさない。」

 夏が目を伏せ考えている。
 周りの静寂に風の音が強く聞こえる。

「これが今の私。嫌な女、馬鹿な女だけどね。同じ事を涼介にも聞くつもり。それで、二人を失っても後悔はしないから…。」

 言い終わらないうちに、夏の腕に抱きしめられる。

「…前から言ってる。」

 その抱擁はきつく、苦しく、抜け出せない。

「それでもいいから。彼氏がいてもいいから…。俺は橙子さんの側にいたい。」

 夏の言葉が、頭をめぐる。

「…橙子さんの事が、好き。」

「…ん。」

「大好き。」

 耳にかかる息と言葉に身体が震える。
 夏の身体に私を委ね、全てを受け入れる。

「…夏。私も、夏が好き。」

 もう、決して後戻りできない。
 いつか、どちらを失うことになっても…私は後悔なんかしない。
 自分で決めた、未来の選択だから。

「…夏のこと、大好き。」

 今、二人を見ているのは満天の星と三日月。
 闇の静寂の中、二人は触れ、求め合う。お互いの存在を刻み込む様に。
 
 

 
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