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ここで待ってるから。
第8章 眺めの良い場所。
 私は夏をみつめ、聞く。
 夏は深いため息をつき、私を静かに抱き寄せる。

「…もう、いいです。俺が勝手に焦って、俺が勝手に慌てて、俺が勝手に嫉妬してるだけです。」

 夏の唇が、耳を甘噛みし舌でなぞる。

「ああっ…ん。」

 その感覚に思わず声をあげる。

「…橙子さん…。」

 夏は首筋にキスをして、匂いを嗅ぐ。

「…離して、夏。」

 今のこの状態じゃ、エッチをする気にもなれない。ただ守と話をしてただけなのに。
 だんだん、腹が立ってくる。
 なによ、無防備って。なんなのよ、まったく。それに、何あの言い方。夏のこと、あんな風に釣り合うとか合わないとか、涼介と比べて子供だなんて思ったことなんかない。

 しつこい愛撫に嫌気がさす。

「離してって言ってるの。」

 少しだけ怒って、冷たく言葉を放つ。
 夏が静かに身体を離し、距離を取る。

「…ごめん。」

 小さく呟き、そっと部屋を出て行く。
 乱れた服と髪を整え、溜息をつく。実際問題、今の関係がみんなに知られたら、もうここには帰れなさそう。流石にイトコ同士で、性欲を処理する関係です…とは言えない。
 彼氏がいるのに、そんな関係です…って、どんな顔して言えばいいんだろうか。
 きっと、まだ恋人同士ですとか言えたら楽だったのかな。
 少し疲れたな…。


 夏とは会っても口をきかず、目線も合わせず。
 ちらほら、親戚達が集まりリビングと和室二間が解放され、持ち寄り料理や朝から準備した料理が所狭しと並ぶ。
 父は早くから、酒が入り軽く出来上がっている。

「夏の就職祝いだ。みんな、やってくれよなぁ。」

 夏は親戚達からの叱咤激励を受ける。
 金一封が贈られたり、ちびっ子達から遊ぼう攻撃。今日の主役は夏だから、さっきよりは表情が柔らかくなる。
 守達も合流し、妹のあかりのお腹を見る。

「もうすぐ、産まれるね。」

 そっとお腹に手を当て、その温かさと命を感じる。

「年末には、三人の母だよ。橙子ちゃんも、早く結婚して子供産んだらいいよ。毎日、大変だけど楽しいよ。」

 あかりはお腹をさすり、ニコニコする。

「…うーん、結婚か。相手が…ねぇ。」

 頭に涼介が浮かぶものの、それは無いな…と寂しく笑う。

「あれ?相手、いないの?」

「そうだね。そんな、結婚を考えたりする人はいない…かな。」
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