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ここで待ってるから。
第9章 嘘と、好きと嫌い
「顔色、まだ悪いね。」

 私の頬に手を添える。
 少し冷たい手が気持ちよく感じる。

「…橙子さん。俺、料理も洗濯も掃除もがんばるから。」

「ん?うん。」

 なんだろう。その含みのある言い方。

 夏の淹れてくれたお茶を飲む。夏も隣に座りコーヒーを飲む。ふっと見ると普段包丁を使う料理なんかしないから、何箇所か切った後がある。
 夏の手を取り、他にないか見る。

「…と、橙子さん?」

「急にどうしたの?包丁なんか使って。料理なんかいつもの、カット野菜やもやしを適当に炒めたヤツでいいのに。」

 夏は苦笑いしている。
 私も笑いながら、ソファを立ち薬箱を取りに行く。中から消毒薬とキズバンを出し、夏の手の傷の手当てをする。
 私より大きな手のひら。
 昔はこの手を引いて、近所の神社とか裏山に遊ぶに行ったっけ。
 いつの間にかこんなに大きくなって、私より背が高くなって、大人になっていた。
 
「なんか、くすぐったい。」

 夏は頬を赤く染め照れている。

 かわいい…。
 涼介には見られない表情。私が付き合ってきた男には見た事がない。
 
「本当、無理しないでいいから。私のこともそんなに気にしないで大丈夫。いい加減、大人なんだから。」

「え?気にしますよ。大人とか関係無い。明日、俺も休んで一緒に病院行きます。」

 うーん?病院?そこまでひどく無いし、寝てればおさまるし。だいたい、仮にも彼女が重い生理痛だったとして、彼氏は仕事早退するものかしら?次の日、休んだりするものかしら?病院って?

 考えれば考えるほど、疑問が増えるけど夏は真剣な顔をしている。

「とりあえず今は休んでください。」

 夏の言葉に目を閉じる。




 夢を見た。

 涼介は私の横に並んで立っている。

 私は涼介の横顔が好き。顎から首のラインも。

『いつか、俺は親父の様に力で全てねじ伏せ、弱いものを踏み台にし頂点に上り詰める。それが、俺の夢。なぁ、橙子。俺についてこい。そしたら、絶景を見せてやる。』

 可哀想な、涼介。
 貴方には大きな、大きな穴があいてる。

 この人の、空いた穴はあまりにも大きすぎた。
 私なら埋めてあげると思ったけど、結局は無理みたい。

『橙子が幸せだと思う選択をしろ。』

 涼介の身体の穴から風が吹く。
 私はその風を受け、考える。
 私の幸せって…。
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