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ここで待ってるから。
第9章 嘘と、好きと嫌い
 夢が途切れ、現実の気配が眠りの中に入ってくる。

 身体を動かし、枕の位置を変える。
 よく見ると、私は夏に抱きしめられながら寝ていた。

 夏に向きなおり、少しだけ仰ぎ見る。

 苦悶の顔を浮かべながら寝ている。色白の肌に、少し尖った顎。そっと、指で触れる。

「…ん。」

 くすぐったかったのか、目を覚ます。
 長い睫毛が震え、黒い瞳が私を捉える。

「今、何時ですか…?」

 時計を見ると十九時過ぎ。

「橙子さんがあまりにも気持ちよさそうに寝てたから、一緒になって寝ちゃいました。」

 夏はまだ、ぼーっとしている。
 私の肩や背中をさする。

「橙子さん、もう一人の身体じゃないんだから。もっと大事にして下さいね?」

 …うん?はい?

「俺がちゃんと、橙子さんとお腹の赤ちゃんを守りますから。安心してください。」

 おい、おい。
 いつから、赤ちゃんいる設定?
 何かおかしな事になってやしないかい?夏君。

 私は変な顔をして夏をみつめる。

 夏も変な顔をして私をみつめる。

「…いつ、私が妊娠したのかな?」

 私は身体を起こし、夏を見下ろす。
 夏は寝たまま眉を寄せ、私の肩を通り天井を見ている。

「えっと。うーん。違うんですか?」

「違います。」

 いったいどこをどうとったら、そうなるんだろうか。
 
 夏は顔が歪み、溜め息を一つつく。

「…そっか。やられました。」

「?」

 私の髪がサラッと肩から落ち、夏の頬を撫でる。その髪を夏がそっと指を絡める。

「うん。いや、俺が帰ったら深山さんと会ったんです。」

 あ、私を送ってくれたあと夏と涼介はこのマンションで会ってしまったんだ。

「…その時、深山さんは橙子さんの身体を大切にしないと駄目だぞ。一人の身体じゃないんだから…とか言われて…いや、俺が勝手にそんな風に解釈しちゃったから…。」

 夏は顔を真っ赤にして、あたふたしている。
 私は夏の髪をなで、顔を覗く。

「うん。なんとなく、わかった…。夏。」

 涼介にからかわれたのね。
 
 夏は静かに溜め息を一つ。目を閉じる。

「橙子さん。」

 私の背中に手を回し、胸に抱き寄せられる。暖かい身体に頬を寄せ鼓動と息づかいを感じる。
 夏の手に力が入り、私をしっかりと抱き締める。

「俺、がまんできないかも…。げ、限界…っ。」
 
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