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ここで待ってるから。
第9章 嘘と、好きと嫌い
〈涼介の領分③-1〉


「深山君。どうだろう?うちの娘を嫁にもらってはくれないだろうか?」

 源藤専務の話にはいつだって裏がある。
 
「それは、提案ですか?命令ですか?」

「半分半分かな。うちには、二人娘がいるのは知ってるね?親の私が言うのもなんだが、容姿は悪くないと思う。」

 ゲンドウ化粧品は日本の化粧品トップメーカーで、赤ちゃんの保湿剤から老人介護用品まで幅広く扱っている。会長の源藤康子を筆頭に娘の依子と珠子が柱となり、会社を支えている。
 依子の婿養子がこの、源藤はじめ。
 外堀から埋めいつかゲンドウを手中に納める…などとのたまわっている。

「会うだけあっても構いませんが、上手く話が進むとは限りませんよ?それに、俺よりも優秀な人材は沢山いますし。」

「深山君。これはゲームなんだ。」

「…貴方のゲームの駒と言うわけですね。」

「誰も損はしない。君の返事次第だがね。」
 
 このゲームに付き合ってもいいか。

 頭の中で少し考える。

 自分の過去に憐れみながら生きるより、未来の自分を楽しんでみようか。
 そんな風に思えるようになったのは、橙子がいたからだ。
 だが、その道連れにするには、橙子はあまりにも大切にしすぎた。

 声が聞きたい。

 距離を置きたいと言われ、数日が経つ。

 先日の専務との話を思いだしながら、午前中は資料作りに専念する。気がつけば昼の時刻。携帯から橙子にかけるが出ない。
 足早に橙子の部署に向かう。
 橙子の姿はなく、一人の社員に声をかける。

「沖田君。波村さんは?」

「あ、深山さん。波村さんは体調不良で早退です。かなり調子悪いみたいで。今さっき、帰りましたよ。必要な書類とかありましたか?タクシーで帰るみたいな事、言ってましたよ?」

 橙子と一緒にチームを組んでいる沖田はパソコンから目を離さず答える。
 
 取り敢えず、裏手の駐車場に回ってみる。
 
 壁に寄り、しゃがみこむ橙子がいた。
 側に行き、抱える。

 細い肩に、何度も触れた綺麗な髪。
 白い指に愛しく自分の指を絡める。

 橙子は本当に面白い女だ。出来れば、このまま自分のモノにしておきたい。
 誰の目にも触れさせず、鳥籠の中に閉じ込めて自由を奪いたい。なんて、自分勝手な妄想だ。

 だいたい、橙子はそんな女なんかじゃない。

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