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ここで待ってるから。
第9章 嘘と、好きと嫌い
〈涼介の領分③-2〉


 橙子をベッドに寝かせ、キッチンに向かう。久々に上がる部屋をタバコを吸いながら見渡す。
 所々にあの、例のイトコの存在が誇示する。

 見慣れないコーヒーカップ。タオル。男性雑誌。

 同棲していたら、また二人の関係も変わっていたかもしれないな。
 
 多少の後悔。

 二人で住んだらどうだったろうか?
 昔の自分の父親と姿を重ねる。あちこちにいた愛人。最初は隠していたのだろうが、そのうち隠すことをやめ堂々と自分と母親を傷つけていった。
 きっと同じ事を橙子にもしてしまうだろう。
 いや、結局もう傷つけている。だからこそ、自分から心が離れ、その隙間にイトコの存在が入り込みはじめている。

 ガチャガチャ、バタン。

 玄関のドアの鍵があく。そちらを見ると、ツカツカと凄い形相の青年が迫ってくる。

「あっ。深山さん?!と、橙子さんは?!」

 一番今、会いたくない人物。その青年は鼻息荒く、自分の側までやって来た。

「部屋で寝ている。」

 タバコを灰皿に押し付け、火を消す。
 自分の中に燻っている、負の感情も消し去りたい。

 イトコ…夏の姿をまじまじと見る。
 若いな…。それに、真剣な眼差しに淀みなく真っ直ぐな瞳。昔は自分もこんなだったのだろうか?
 
「夏君、だったかな?橙子はかなり体調が悪いみたいだ。」
 
 顔色が曇る。
 本気で心配しているのか。

「…橙子はあまり自分から、辛いとか苦しいとか言わない女だよ。」

「そ、それは何ですか?橙子さんの事を全部知り尽くしてるのは、自分だって言いたいんですか?橙子さんに相応しいのは貴方だって、言いたいんですか?」

 顔を真っ赤にして怒る姿に、なんでこんなに安心するんだろうか。

「君は若いな。恋愛ごっこに橙子はもったいない女だよ。」

「ごっこだなんて思っていません。貴方こそあちこちにセフレや女がいるみたいじゃないですか?そっちにかまけて橙子さんに淋しい想いをさせて…いったい橙子さんをどうしたいんですか?」

 どうしたい?
 
「俺は本気で橙子さんが好きです。」

 自分だけのモノにしたい。

「貴方の側で橙子さんを飾りたいだけなら、他の女でもいいんじゃないですか?」

「…君は以外とハッキリ言うんだな。」

 若いチャラチャラした男と思ったが以外としっかりしている。面白い。

 
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