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ここで待ってるから。
第9章 嘘と、好きと嫌い
〈涼介の領分③-3〉


「だいたい、貴方は橙子さんを放っておきすぎなんですよっ。」

 確かに大切に思いながらも、放置しすぎてはいたな。
 思わず苦笑する。

「な、何が可笑しいんですか?」

「い、いや。君に笑った訳じゃないんだ。自分の愚かさに今気がついたんだ。確かに、口では好きだの愛してるだの簡単に言ってはいたが、まったく心のこもった台詞ではなかったな、と。」

 今更、後悔しても遅いな。
 橙子が俺かこのイトコか迷っている事態、もう二人にはかなり距離があるんだろう。

 なら、俺の答えは決まっている。

「君は。」

 改めて、向き直り正面からイトコの姿を捕らえる。この胸の奥にあるのは橙子だけ。なんて、純粋な…。そんな想いに嫉妬する。

「橙子を抱くときは、ちゃんと避妊はしてるのか?」

「…。そんな事、貴方に関係ないでしょう?」

 眉をしかめ、睨まれる。しかし、少しだけ頬を赤く染める。

「今日、身体の調子が悪く早退したくらいだ。身に覚えくらいあるだろう?」

 今度は目を真ん丸にして、顔色がだんだん青くなる。
 いやはや。なんと面白い。
 この位の嘘なんて、橙子を失うよりは大したいた事はないだろう。
 この青年に負けたと思いたくない。
 俺の精一杯の強がり。
 こんな子供じみた面も自分にはあったんだな。今までに見たことの無い自分。新しく見つけた、自分。やはり、橙子と出会えた事は素晴らしかった。

「さて、俺は会社に戻る。あとは二人の問題だ。ただし…。」

 呆然と立ち尽くす青年の脇を通り、肩に手を乗せる。

「橙子が俺の元に戻るのなら、次は二度と離さない。例えどんな犠牲が出ても、命の限り愛してやるつもりだよ。」

 この青年を憎めれば良かった。
 怒りをぶつけて、奪い返せばいいのに。

 それは出来ない。橙子を傷つけ、泣かすことは出来ない。

「さようなら。イトコ君。」

 静かに玄関を出て、車に戻る。
 このまま、仕事を続ける気にもなれないな…。

 とりあえず、今は誰でもいい。

 携帯の中から今すぐに答えてくれる女を探し出す。
 
 大したことはない。
 この、感情すら橙子からの贈り物ならば。今は大切に付き合ってみよう。

 淋しい…と言う気持ちは、いつか本当に愛する人が消し去ってくれるだろう。

 今は淋しさと隣り合わせに歩くだけ。
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