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ここで待ってるから。
第10章 女の嫉妬。男の我が儘。
「お客様、僕には妻と子供がおりますので。魅力的なお申し出ですが…。」
「?!」
そこには、オーダーを取りに来た男性店員が一人顔を赤くして立っていた。
沙矢子はテーブルにうつ伏して身体を揺らしている。空のジョッキで殴ってやろうか…。
「す、すみません…。あ、えっと、注文を…。」
終電に滑り込み、マンションに着く。
エントランスに向かうと、二人のカップルがいた。よく見ると、夏と見たことがない女性だった。
「あ、橙子さん。おかえりなさい。」
私に気がついた二人は、私に近寄る。
「はじめまして。私、大学で東先輩と同じサークルだった遠山胡桃と申します。夜遅くにすみません。」
礼儀正しく挨拶をする。
柔らかな髪に大きな瞳。淡いブルーのシャツにジーンズ。足元には大きなスーツケースにダウンジャケット。
「胡桃ちゃん。えっと、こちらが橙子さん。俺のイトコのお姉さんで同居人。」
イトコのお姉さん…。う、うん。まぁ、そうなんだけど胸の奥がチクッとした。
「橙子さん。ちょっとお願いがあるんですけど。」
夏は少し困った顔をする。
「あ。東先輩、私からお話しさせてください。あの…。」
彼女の言葉を遮り、エレベーターに向かう。
「とりあえず、中に入らない?私、水が飲みたいの。」
冷蔵庫から水のペットボトルを取り、一口飲む。
「で、お話って?」
「じつわ、こちら東京に住んでいる兄を訪ねて来たんです。でも、出張先でトラブルがあって帰れないそうで。こんな事になるとは思わず、鍵も預かってないし。悩んでいたら、東先輩を思い出したんです。でも、今から冷静に考えたら、兄のアパートの大家さんを訪ねるとかホテルとか探せば良かったんですけど…。」
申し訳ない顔をして、彼女はうつむく。
「時間が時間だから、大家さんは迷惑かもね。ホテルはビジネスホテルなら泊まれたかも?でも、私も上京してきた時は、緊張したし…そんなに臨機応変とはいかないものよね。」
時計を見ると一時過ぎ。今から女の子を追い出すわけにもいかないか。
「リビングのソファでよければ、泊まって。シャワーもどうぞ。あ、明日の朝でよければお兄さんの連絡先教えてくれる?一応、可愛い妹さんがちゃんとした所に泊まったと安心させないとね。」
「うわぁ、ありがとうございます!」