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ここで待ってるから。
第10章 女の嫉妬。男の我が儘。
「あの、はじめまして。胡桃の兄です。」
遠山楓(かえで)32歳。広告代理店に勤務。独身。身長178センチ。体重61キロ。
少し長めの髪に銀の縁の眼鏡。濃いグレーのスーツはとても好印象。
でも、眼鏡が冷たく氷の壁みたい。
リビングに通し、小さめのこたつに今まで三人で鍋をつついていた席に案内する。
しかし、席には着かず胡桃ちゃんの側に行く。
「はじめまして。波村橙子です。で、こちらがイトコの東夏です。夏と胡桃ちゃんが大学のサークルの知り合いだそうで。」
夏は立ち上がり、笑顔で挨拶をする。
胡桃ちゃんは酔っぱらいながらも、立派に鍋奉行をこなしている。
「東です。はじめまして。」
「本当にご迷惑おかけして。あの、これ北海道のお土産です。イクラの醤油漬けと定番のチョコレートです。」
「え、二つも?そんなお気遣い…。」
「甘党、辛党わからなかったので。どうぞ、受け取ってください。胡桃、お前何ゆっくりしてるんだ?ほら、帰るぞ。」
「えー。この鍋食べたい。てか、もう一泊していってもいいでしょう?橙子さーん。」
度数の低いカクテルにも顔を真っ赤にし、楽しそうにしている。
夏はヒヤヒヤしながら、鍋の火の調整したりフラフラしてる胡桃ちゃんを支えたりしている。
「胡桃ちゃん、お前弱いのに飲み過ぎ。だから、コンパとかで狙われまくりなんだよ。」
「でも、その度に東先輩、ちゃんと助けてくれてるしー。」
そんな二人を見て、少しだけ羨ましくなる。
あー、優しく介抱されたい。
「なんだか、橙子さんになついてしまったようで。バカな妹が本当に申し訳ありません。」
「いえ。家の事を色々してくれて助かりました。料理も掃除も。とりあえず、遠山さん座って一杯どうですか?」
少し考えて、諦めたようで席に着く。
「…本当は昼から何も食べてないんですよ。」
鍋の蒸気で眼鏡が曇る。
照れながら眼鏡を外し、ポケットからハンカチを出しゆっくりと拭き取る。
あ、なんだか優しい顔してるのね。眼鏡でキツイ印象だったけど…。
「それに、こんなに賑やかな食事は久しぶりです。」
ニッコリ微笑まれ、思わず目をそらす。不自然に遠山さんの上着を奪って、ハンガーにかける。
なんでこんなにドキドキしてるんだろう。
かなり欲求不満だわ。沙矢子にまた笑われそう。