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ここで待ってるから。
第10章 女の嫉妬。男の我が儘。
「胡桃ちゃん!」

 夏は胡桃ちゃんを抱き上げ、横に座らせる。
 よく見ると、涙がポロポロ溢れている。

「…胡桃ちゃん。」

「うっ。うわぁん。とーこさーん。」

 私以上にお酒を飲ませてはいけないタイプの子だわ。
 私は近より、肩を支える。肩の力が抜け、私に寄りかかってくる。グスグス鼻をすすりながら目を閉じ、呼吸が深く整う。
「…寝ちゃったみたい。」

「東君。胡桃は君の事が好きなのかな?」

 夏は服を整える。寝息をたてる胡桃ちゃんの頭を優しく撫でる。

「お兄さん…俺は胡桃ちゃんを妹位にしか思ってませんから。」

  遠山さんは立ち上がり、胡桃ちゃんを優しく抱き上げる。
 まるで、大切な宝物のように。

「私のベッドに寝かせてあげて下さい。」

 部屋に案内する。クローゼットを開け、ケースにしまってあった布団を出す。

「…女性の部屋に、それも初対面なのに申し訳ありません。」

「いえ、いえ。今、お客様用のお布団用意しますね。こちらで休んでくださいね。」

「波村さんは?」

「私はリビングでもどこでも大丈夫ですから。心配しないで下さいね。いざとなったら、夏を追い出して夏のベッドで寝ますから。」



「胡桃ちゃんは昔から、飲むと絡むし泣くし…男には誤解されやすい子なんです。」

 遠山さんに部屋を案内し終わると、私と夏はテーブルの上を片付けはじめる。

「お互い本が好きで、ジャンル問わず話が合う仲間で。妹みたいなもんですよ。」

「…それは、何?」

 テーブルを拭いている手を止める。

「何の言い訳?」

 違う。そんな事を言いたい訳じゃないのに。

「…胡桃ちゃんとの事、聞きたそうだったから。」

 夏の寂しそうな横顔。
 なんで、そんな事わかってる。
 夏が私の事をちゃんと好きな事。
 大切に想ってる事を。

 でも、私はそれを言葉にするのが怖い。

 邪魔をするのは、年上でイトコという負い目。

「橙子さん。」

 夏は私を抱きしめる。
 今は素直に身体をあずけ、心臓の音を聞く。呼吸を体温を感じ、どこか安心する。

「…橙子さん。ちょっと、妬いてくれました?」

 顔を上げ、夏を見る。

「…。」

 顔が熱く赤くなるのがわかる。夏には隠し事が出来ない。

 小さくうなずく。

 自分の精一杯の甘え方。

「橙子さん。」

 そっと、唇をかさねる。
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