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ここで待ってるから。
第12章 魅惑の果実。
〈楓の領分②〉


 小学校六年、十二才の時父は一人の女性と知り合い、再婚した。再婚と言っても、籍は入れず同居するようになった。

 しばらくすると、その女性は子供を産み産後、身体を悪くして亡くなってしまった。
 自分の本当の母親は育児放棄し、父と離婚。
 母親の愛情は受けていなかったが、この女性は優しく接してくれた。

 だから、この妹には母親の愛情を知らない娘にはしたくなかった。
 父と二人で、大切に育ててきた。

 三年前、父が病に倒れ病床に着いた時ある告白をされた。

『胡桃は俺の子ではないんだよ。』

 話を聞けば、当時会社の後輩であった女性は不倫相手の子を妊娠し困っていた。
 その不倫相手も父は知っていたが、女性に好意を持っていて結婚を申し込んだらしい。
 しかし、籍を入れるのは頑なに拒まれ、なら無事に産まれ育てる手伝いをさせて欲しいと同居したらしい。

 十七年の間、何も知らず血を分けた妹がまったくの他人になった。

 それでも、兄と妹として日々は過ぎていった。

 今までも数人、付き合った女性はいたが深い仲にはなれずすぐに別れた。
 何が原因かわからず、最後に付き合った女性に指摘された。

『遠山さんは、誰と恋愛したいの?私?それとも妹さん?』

 彼女の言い分としては、私だけ見て欲しいのに必ず妹と比べる。

 無意識に胡桃を重ねていた。

 一緒に出かけたり、笑い合ったり。愛を語る時も。キスをする時も。

 いつのまにか、相手は胡桃になっていた。

 ただの妹が、大切な女になっていた。

 この不純な気持ちを胡桃に知られてはいけない。
 この気持ちを隠さなくては。

 家族が居なくなってしまう。
 大切に育て、築いてきたモノが無くなってしまう。

パンドラの箱を開けると、最後には『希望』が残っていたと言う。

 僕のこの箱を開けたら、何か残っているのだろうか。


 目の前に、未熟な果実がなっている。甘い香りを放ち、目の前を通り過ぎる者を魅了する。

 唇を寄せれば、甘い果実にみずみずしさに歓喜する。指先で触れれば、ベルベットの様に柔らかで包み込まずにはいられない。

 なんて、美しい魅惑の果実なのだろうか。

 決して手にすることはならない。

 アダムとイヴが手にした、禁断の果実のように。二人は無垢を無くし、永遠に罰を受ける事になる。

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