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ここで待ってるから。
第12章 魅惑の果実。
「取り乱して、すみません。」

「…。気にしないで下さい。温かいお茶を淹れますね。」

「貴女と、恋をしたらきっと楽しいでしょうね。」

 淹れなおしたお茶をゆっくり味わう。この人の食事の仕方や仕草は本当に綺麗で、素敵だと思う。
 安っぽい湯飲みも、高価な物に見えてしまう。

「いえ。多分、私と恋愛してもつまらないですよ。相手と思いが通じあったとたん、冷たくなったり。嫉妬したと思ったら、一人で平気で生きてみたり。面倒臭い女だし。以外と飽きっぽいし。」

 過去の数少ない恋愛を思いかえす。

 愛してると言われなければ、言葉を求め。身体を重ねては、寂しいと泣いてみたり。性欲を満たせば、冷静に恋愛を分析する。

「でも、誰かを求めずにはいられない…。私と遠山さんは似てますね。」

 身体の温もりに、鼓動を感じたい。
 その抱擁に溺れていたい。
 どんどん、欲張りになっていく。

「もう少し素直なら、こんなに苦しまないで済むのに。」

 夏に抱きしめられたい。
 今すぐにでも、愛し合いたい。もう、一分でも一秒でも離れたくない。

「…そうですね。でも、僕はもう少しだけ箱を開けるのを後にします。勇気がないんです。怖いんです。いい大人が恥ずかしいですね。」

 そんな事を言う姿がかわいくて、思わず抱きしめる。

「と、橙子さん?」

 私より歳上なのに、恋に対して臆病で繊細で。

 なんて、愛おしい。

 

「ありがとう、橙子さん。」




 しばらくして、遠山さんは帰っていった。

 
 一人の部屋は静かで、どこか寒い。テレビをつけ、表面だけでも繕う。

 窓を開けて、風を入れる。
 カーテンが風をはらみ、三月の冷たい空気が肩を撫でる。

 遠山さんが好きな人…。
 心に秘めている情熱は誰のため?

 もっと、もっと貪欲に夏の温もりを求める。

 愛したい。
 愛されたい。

 そっと窓を閉め、ソファに座る。
 微睡みが襲い、静かに目を閉じる。夢の中にゆっくりとたゆたう。


「風邪ひきますよ?」

「…ん、ん。」

 今、何時…。

 目を開けて、時計を見る。…零時前。
 夏はコートを脱いで、椅子の背もたれにかける。

「ただいま。橙子さん。」

「おかえり。…胡桃ちゃん、大丈夫だった?」

「うん。はい、これ。」

 目の前にコンビニの袋を差し出す。
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