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ここで待ってるから。
第13章 《沙矢子さんと総一朗君。》月まであと一歩
 リリン。

 扉を開けると、ドアに仕掛けてあったベル鳴る。

 中は外装とは違い、近代的なカウンターに待ち合い室。

「はい、どうされました?」

 診察室の扉が開き、一人の男性が出てきた。

 背がスラッと高く、色白。鼻筋が通って、厚いしっかりとした唇。残念なのは、前髪が長く表情隠れてしまう。

 随分、若い先生ね。

「あ、あの。子猫を拾ってしまって…。」

「見せてください。」

 大きな手が差し出され、ハンカチに包まれた子猫を受けとる。
 顔を覗き、目や口の中、耳をチェックする。
 お腹や手足を触る。

「産まれて二週間位ですね。ちょっと衰弱しかかってますから、点滴します。」

「そうですか…。」

 診察室に通され、診察台にあるタオルの敷いたかごに子猫を置く。
 丸椅子を差し出され、座る。
 手際よく、準備をする。

 その間、優しい手付きで頭をそっと撫でたり。子猫はうっとりとする。

「この子猫、貴女は飼えますか?」

「え?」

 言われてみれば、アパートはペット不可で昼間は仕事だし。飼うことなんて考えてなかった。

「…飼えないとなると、飼い主を探したりしないと。かわそうだからと、後先考えずに拾ったりしてはいけないんです。もしかしたら、近くに親猫がいたかもしれないですし。このまま見つからなかったら、保健所も…。」

「じ、獣医さんがそんな事を言うなんて。」

 あんなに必死に鳴いていたら、手を差しのべるのが普通じゃないのかな?

 あれは私を呼んでいたんだから。

 助けて。

 小さな命の叫び声。


「命を助けるのに、後先なんて考えないでしょう?!」

 勢いよく、椅子から立ち上がる。
 右の足首に激痛が走り、膝から落ちる。

 咄嗟に腕が差し出され、抱え込まれる。

「…ありがとう。」

「…里親さがしましょう。それまで、こちらで預かります。でも、貴女も色々周りの方に飼えるか聞いてみてください。」

 椅子に座らせ、私の前に屈み込む。
 温かい手が、私のヒールを脱がせる。

「腫れてますね。」

 立ち上がり、包帯と湿布を取る。

「脱いで下さい。」

「…え?」

「…ストッキング、脱いで下さい。」

 先生の顔を見ると、耳まで真っ赤にしている。

「湿布を貼っておきます。明日、病院で診てもらって下さい。それから…先程は言い過ぎました。」
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