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ここで待ってるから。
第13章 《沙矢子さんと総一朗君。》月まであと一歩
「子猫、元気ですか?」

 あれから、あの出来事から一週間。
 お互いの生活の流れに戻り、なんてことない日常を過ごす。

 子猫の貰い手も何件か問い合わせがあったものの、引き取り手はみつからない。

 土曜日の午後、買い物ついでに総一朗君の所に寄る。

「こんにちは、沙矢子さん。」

 満面の笑顔で総一朗君が出迎えてくれる。

 でも、この関係って何だろう。
 恋人同士…なのかな?

「子猫に会いますか?」

「ええ。」

 ゲージから出された子猫は、腕の中で遊んでほしくて手にじゃれつく。
 フワフワの身体を撫でながら、待ち合い室の椅子に座る。
 総一朗君は受け付けのパソコンをいじっている。

 時々、子猫から視線を上げると総一朗君と目が合う。まるで、学生の頃の初恋みたいにドキドキしている。

 あの夜の事も思い出しては、溜め息をつく。

「おーい、若先生いるかい?」

 扉が開き、初老の男性が柴犬を抱えて入ってくる。

「はい。あれ、小池さんとナナちゃん。どうされました?」

「散歩してたら、車のクラクションにビックリしていきなり走り出したら、側にあったサボテンの鉢に突っ込んでよ。二本は抜いたけど、あと一本抜けなくて。」

 総一朗君はタオルにくるまれた柴犬を抱き、前足を見る。

「とりあえず、中で診ますね。座ってて下さい。」

 そう言って診察室に入っていく。

 初老の男性が待ち合い室の椅子に座り、しばらくするとまた、扉が開く。

「あれ、小池さん。」

「中町さん、こんにちは。どうしたんですか?」

 これまた、年配の男性が入ってくる。

「飼ってる猫が何か変なものを食べてしまって…。」

 猫が入っているケースを撫でる。

「そうでしたか。うちは…。」

 会話を遮るように、受け付けの電話が鳴り響く。

「若先生、電話鳴ってるよ?!大先生はいないのかい?」

 診察室に向かって声をかけるが、中ではトゲを抜くのにバタバタしている。

「小池さん!中に来て下さい!!ナナちゃん、押さえて!!」

 慌てて、初老の男性が診察室に入っていく。

「…まったく。小雪ちゃんが居なくなってから、これだもんな。若先生も罪な人だよ。」

 前にも名前を聞いた気がする。

 『小雪ちゃん。』

「可愛がっていた、小百合ちゃんも追い出すとはな…。まだ、小さかったのに。」
 
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