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セルフヌード
第4章 光と闇
「──……」
カップがソーサーに落ち着く音が微かに鳴った。
美優の隣で、美しい横顔がとりとめない情緒を浮かべて、静かにケーキを口に運ぶ。
「あの、……」
何か、言わなければ。
だのに美優は、こんな時のための気の利いた言葉を持ち合わせない。
「…………」
「美優」
左腕がやおら引かれた。目尻になつみの指先が触れた。
「迷子のウサギさんみたい」
「えっ」
「きょどるほど感動してるでしょ。美優って顔に出やすいね。瞳、ちょっと潤んでて……泳いでて、可愛い。そんなに感謝してるなら、今の美優を撮らせて」
「──……」
いつから言葉がいらなくなったのだ。
いつからなつみは、美優の胸中をそっと覗き込んでくれるようになった?
なつみがカメラを取りに出ていった間、美優は、一口一口、ケーキを噛み締めるように味わった。
世界に潜むあまねく美を引き出す指が、焼いた生地。美優を顫わせ、躍らせ、夢にとりこめる指が、生んだ味。
喉から抱かれている気分になった。