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セルフヌード
第4章 光と闇
変わっていないのは、良の方だ。
美優は変わった。
こんなに優しい人に背いている。
愛されたくて、愛されなかった。
少し見られる顔になって、少しロマンチックな体験に耽るようになったなり、たった一人愛してくれた良をひとときでも忘れて、美優に知らなかったものを見せてくれた人に、肉体ばかりか心まで許している。
世間一般が最低と名づける因業に、自らのめり込んでいる。
「…………」
なつみをとやかく言えた立場ではなかった。
「あのね、良くん」
「ん?おっ、あのドーナツ美味そー」
「そうだね、……」
「あ、悪りぃ。どうした?美優」
「──……」
重婚って、どう思う?
不謹慎な冗談が、一瞬、美優を現実から逃しかけた。
「私、……アルバイトするの。一日だけ」
「欲しいものなら買ってやるぞ」
「違うの、モデルのバイトがやりたくて」
「おっ?」
「友達が個展開くの。…──写真の仕事をしている人で、普段はファッション誌をやっててね、素敵で、ちょっとセクシーな作品撮ってる女の人。友達のよしみで声かけてくれたみたい」
「…………」
「私の時は、そういうのは撮らないって。良くん以外は見ちゃダメだって、言ってたよ。へへっ、お節介でしょ」
「──……。すげーじゃん……」
「良くん……」
「すげーよ、美優!プロじゃん!身嗜み気合い入れると人生変わるな。俺もネクタイ変えよっかなー」
「そういうのじゃないよぉ、一枚か二枚だし、一回きりだし、……」
「会社のやつら、連れてくわ。有休とろっかな。撮影いつ?美優の写真はいつ見られるの?」
「五月くらい……撮影は、月末。良くん、会社の人達は良いから、有休もとらないで。……あんまりそういうの、恥ずかしい。……」
罪悪感と充足感は、同時に満ちることがあったのか。
美優は良に腕を絡めた。
脇を通った三人組の婦人らが、若い人達は良いわねぇ、と、美優達を手放しに囃し立てていった。