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セルフヌード
第4章 光と闇
* * * * * * *
夏のコスメ特集の撮影後、花蓮の親しい友人は、慰労の言葉もそこそこに、カメラを仕舞ったバッグを担いで颯と現場を立ち去った。
燦爛たる光の重なるスタジオに、顔料独特のフレグランスと久しく緊張感のとけた男性スタッフ、それからコスメにも優る華やかな女性陣が残った。
「あっ、嶋入さん帰っちゃった」
「あーんっ、また声かけられなかったぁ」
「最近お姉様冷たくない?」
「私も全然お食事誘ってもらえなくなったぁ。何かあったのかな」
「声かけてもいつもご予定入ってるよね」
「お仕事なら良いけど、それはそれでちゃんと休まれてるか心配」
「まさか女……」
「そんなわけないわっ。いくらなつみさんがお綺麗だからって、抜け駆けしてひとり占めしようなんてがめつい女が、私達に勝てるわけないじゃないっ」
「どうかしらねー」
「木之原さんっ?!」
たった一言の意地悪が、モデル達の注目を花蓮に集めた。
なつみは昔の友人に会うと言っていた。大方、先日の養護施設員と昔話にでも興じるのだろう。
「何でもない。お疲れ様。皆、可愛かったわ」
花蓮は焦眉の美女達の視線を逃れて、手早く荷物をまとめ上げると、罪作りなもの言う花の立ち去っていった扉へ向かった。
鼻に馴染んだフレグランスが、鉄筋コンクリートの匂いに変わった時、ふと、一ヶ月前なつみに任された女の顔が脳裏を掠めた。
花蓮が日頃手をかけているモデル達とは雲泥の差の、垢抜けない顔の女だ。洋服もぱっとしなかった。
それでいてなつみが執心しているだけある器量をしていた。
美しいだけのモデル達とは違う。畢竟するに、日本食が恋しくなった日本人にとっての味噌汁のような人物だった。
何か違う。悪い予感さえ押し寄せる。
一対一の恋愛関係を信仰しながら、花蓮はその実、なつみの博愛主義ぶりを気に入っていたところがあった。
花蓮の知る嶋入なつみという人物は、たった一輪の花のためにブーケを見切るような女ではなかった。…………