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セルフヌード
第4章 光と闇
* * * * * * *
賑やかな子供達の声が聞こえる。
小ざっぱりした応接室を閉めきって、りのは六年前施設から送り出した女の一人を数ヶ月振りに迎えていた。
ローテーブルに並べた二つの湯呑み。片方を時折啜っては、女はしかるべき歳月をしたためた相好に控えめな表情を見せていた。
長野梨沙(ながのりさ)。
梨沙と暮らしたのは一年だった。当時新米職員であったりのは、十七歳というとりわけ年の近い彼女とうまが合った。
「梨沙ちゃんがモデルをやってたなんて」
「はい、……」
「あの頃の方がよく来てくれてたのに、教えてくれなかったなんて水臭いじゃない」
「すぐにやめてしまいましたので」
梨沙がモデルを生業としていたことを知ったのは、なつみとの再会──…『少女crater』がきっかけだ。
先日、りのは初めて写真集というものを買い求めた。
そして表紙を向けた瞬間、デジャブした。鏡の森に覚えがあったのではない。人口の迷宮に佇む少女が梨沙だったのだ。
眉で揃えた前髪は、無垢な顔かたちを思春期の少女同然いとけなく引き立て、黒檀の艶の滑る長い髪が、二十三に至った今でも、やはり大人の娯楽など知りもしないような体躯になだらかに添う。病的な、それでいてあまねくものを砕かんばかりに明るい双眸。
明暗のアートが濃縮された写真集の表紙を飾るに相応しい、かのカメラマンにしてみても、梨沙こそ相反するものを体現したモデルだったのではないか。