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セルフヌード
第4章 光と闇
「あたし、彼女の学生時分の友達なの」
「あ、……」
「貴女を撮ったの、なつみでしょ」
「はい。……」
迷子の気色の双眸が、ぎこちなく、うるさいまでの色彩を盛った花瓶に逃げた。
「お子さん、元気?」
「はい、お陰様で。親はあの通りだし、お父さんが誰かも分からない娘を抱えた私を、大家さんも色々助けてくれて」
「それは何より。今度、娘ちゃんと一緒に来て」
「はい。あ、……あの、先生」
「何?」
「嶋入さんに会われることがあっても、私のことは、お話ししないでいただけますか」
「良いけど、……」
「お願いします」
噛みしめるように頷いて、りのは話題を別に移した。
梨沙に初めて、彼女らしい、緊張のとけた表情が戻った。
「それじゃあ、先生。またお邪魔します」
「里見先生や岩倉さんは顔見て行かない?」
「結構です。私、ここで信頼出来たの、篠村先生だけですから」
梨沙を見送った後、りのは応接室を掃除した。
花盛りの女らしい、甘いオードトワレの匂いがそこはかとなく染み込んでいた。
手を休め、梨沙の口づけていた湯呑みを見つめていると、にわかに耳が不快な響きに驚いた。
穏やかなひとときを遡っていた意識を割る夾雑音は、微かな扉の音であれ、さばかり大きく聞こえるらしい。