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セルフヌード
第1章 秘密の快楽







 たった一杯のウィンナーロイヤルミルクティーを、執拗に撮影している女がいた。



 美優はショッピングモールのカフェでその風変わりな女に目をつけてすぐ、眷属が現れたのだと確信した。



 セルフヌードを収めたスマートフォンは、平気で持ち歩けるものではない。

 美優は、スマートフォンのデータフォルダに健康的なクッションを被せるために、時たまカフェや公園に足を運ぶ。
 たまに会う友人達や、ましてや良の目にデータフォルダが触れることはなかろうが、万が一のこともある。万が一のことが起きた場合、最新データが飲み物や砂場であったなら、安全だ。持ち主の裸体が出る前に、データフォルダを閉じれば良いのだ。


 今日、美優はダージリンティーを撮影していた。
 被写体の角度を変え、フィルターを変え、アングルを変える。アプリで加工を始めた頃、少し楽しくなってきた。最新スタンプが入荷されていた。

 テーブル席二つ挟んで向こう側にいた女は、撮影をやめていた。

 ショッピングモールに釣り合わない、派手な佇まいだ。
 物怖じしない心魂を象徴したような双眸はくりりと白い頬に引き立ち、ほのかなピンクベースの化粧に、腰まで流れる栗色の髪、背丈は百六十に達するくらいか。ふりふりの桜柄のチュニックに、ヴィンテージ加工のジーンズ──…美優からしてみれば、自分によほどの自信がなければ袖を通す気にもなれなかろうとり合わせだ。

 事実、女の容姿は可憐であり、玲瓏であり、妖しい侠気がほのめいてもいた。

 あんな女のどこに、セルフヌードなどに手を出す必要があるのだ。
 若い間に自分の美を記録しておきたいとでも考えたのか。

 姫系ファッションの恵まれた美人が、とりわけ高齢層の溜まり場に足を運んで、セルフヌードを隠蔽している。
 そうした状況を凌駕する矛盾点は、美優の頭につっかえなかった。


 そう、女は、スマートフォンを使っていたのではない。見るからに一等級の一眼レフカメラで、ウィンナーロイヤルミルクティーを撮影していたのだ。…………
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