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セルフヌード
第1章 秘密の快楽



「お姉さん」

 紅茶のシャルドネ──…軽らかな苦みが遠くに彷徨う、気取った芳香を味わっていると、ささめくようなメゾが聞こえた。ダージリンのような声だと思った。

 魅惑的であるのが当然の、計算された美しさ。

 声の主も同様だった。

 存外に化粧は薄かった。間近で見ると、テーブル越しでは見えなかったところまでがはっきりとした。

「はい」

「ちょっと良いですか?」

 頷いてもいないのに、女が真向かいに腰かけた。

 美優は黒目を動かして、近辺を見る。

 幸い客は高齢者ばかりだ。
 これが街中なら逃げていた。こんな美人と一緒にいて、比較して嗤われるのは目に見えている。


「薔薇の粉末をふりかけた、パンナコッタ。……」

「え?」

「こっちの話です。ねぇ、お姉さ──」

「どうぞ、とは、お返事申し上げませんでしたが」

「どうせ暇でしょ。あの、お姉さんすごい熱心に写真撮ってましたよね。趣味ですか?」

「いいえ」

「そういうお仕事?」

「いいえ」

「見せて下さい」

「無理です」

「消してないでしょー。イジワル言ったら、お茶、取りますよ」

 あっ、と、声を上げかけた時には遅かった。

 女の指が器用にカップを回転させて、冷めかけのダージリンティーを取り上げた。

 美優の口づけていたカップの縁から、こまやかなラメのかかった女の唇に、ダージリンが流れていった。

「…………」

 冷めてますね、と、悪びれもしない綺麗な顔が綻んだ。
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