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セルフヌード
第4章 光と闇
* * * * * * *
かつてテネブリズムを追蹤し、その手の精通者達の間に一躍名を馳せたという写真家による四年振りの展覧会は、初日から稀代の注目を沸かせていた。
吹く風もどこか夏めく五月の最初の日曜日。
美優はゴールデンウィークの人だかりをくぐって、洋館風の洒落たギャラリーを訪った。
「この辺は『少女crater』の未公開ショット。こっちは駆け出しの頃に撮ったやつで、総子さんの影響が強いんだ。人物に興味はあったけど、まだ、空の色の方が目立ってるでしょ」
「綺麗……」
美優はパネルを一つ一つ食い入るように吟味しながら、中でもひときわ目を惹かれたポートレートに足を止めた。
朝の空、昼の碧落、夕まぐれ、夜陰、黎明──…。
どれも自然界の断片でありながら、美優の知る世界ではない。
鮮やかな碧落は金色の粒子を柔らかな滝のように地上に注ぎ込んでおり、昼間の空は清澄な泉が天を覆っていったようなみずみずしさを湛えている。
落日の朱色に、ピンク色、群青……絶妙なアングル、シャッターのタイミングが知られざる表情を暴き出した数々は、確かに、同じポートレートに組み込まれた人物を隅に遣っていた。
「この頃からなつみらしいわ」
「そう?」
「私こういうの疎いけど、陰影とか、光の立て方。それにモデルの女の子がとっても綺麗」
自然と口をついて出た感想だった。
だのになつみは、空耳でも聞いたような顔をした。