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セルフヌード
第4章 光と闇
「初めまして。小木曽良です。家内がお世話になりまして……」
「嶋入なつみです。こちらこそ、美優さんにはお世話になってます」
「はい。はは、……モデルさんみたいな人なんですね。家近所だってのに、お目にかかったことなくて」
「恐れ入ります」
「美優が最近楽しそうなの、嶋入さんのお陰だと思います。俺は一緒に住んでても、やっぱ女性同士でしか分かり合えないこととか、補ってやれなくて……。少し前の美優なら、モデルなんてやりたがらなかったと思います」
「良くん……っ」
「今日は、こき使ってやって下さい。こいつ料理上手いんですよ。俺もこんなに良いもの観せてもらって、こんなのが観られるなら、いつでも美優を貸し出します」
「有難うございます。美優さんの素材のお陰です」
これが映画や小説であれば、定石破りだ。
美優はなつみが良となごやかに笑い合う様を見守りながら、いたたまれなくなってゆく。
「美優こんな才能あったんだな」
「私の実力じゃないよ」
「いや、美優もだろ。特にこれ。リボン、小指に結んでるのか?役者でも相当の玄人じゃなくちゃ、こんな演技は出来ねぇと思う。初夜の美優を思い出す。こんな風に、恥ずかしがって……滅茶苦茶幸せそうな顔してくれてた」
「良くん、人前だよ」
「ははっ、悪い悪い」
「なつみ。お邪魔虫は消えましょう」
「はい。……じゃ、美優、あとでね」
「あ、……」
なつみと総子が人混みの中へ消えていった。
美優は良にまといつき、真新しいポートレートの壁面を見つめる。
特別扱いの花嫁の、両脇はプロのモデル達が固めていた。
美優の他に、なつみが撮り下ろした三次元アート。
四年という歳月がしかるべき進境こそ示せど、明暗、退廃、美しいかなしみ、悲惨な悦び──…言わずと知れた『少女crater』の写真家らしい世界が、そこにはあった。