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セルフヌード
第4章 光と闇

* * * * * * *

「写真展すごいねー。まだ二日目なのに、ネット見た?」


 それだけで空腹を満たす匂いが、充足に麻痺した美優の食欲をそそる。


 先日のホテルの礼を兼ねて、美優はなつみの私宅に預けられていた。

 ただし、人の好い良人の言いつけなど端から無下にして、美優はなつみに代わって家事をこなすばかりか、却って仕事を増やしていた。


「ざっと。相変わらず古典芸術の模倣だって」

「もっと良い言葉使おー。ね、この記事書いてる人も、懐古主義だって言ってるわ。四年振りの写真展。ファッション界でのキャリアもあって、まるくなって華やかな脂が乗ったって」

「美優こそ、何て言われてるか知ってる?」


 なつみがスープを器に取り分けてゆく。


 ニンジン入りのコーンスープ。

 メインディッシュのメークインと貝柱の洋風パスタに、さぞ相性が合うだろう。


「幸福な花嫁」

「うん、……」


 美優がモデルを務めた写真は、なつみの従来の色を覆していた。


 光と光。


 囚われの題材に始まるポートレートは、明るく、ただひたすらにまばゆく、世間が嶋入なつみという写真家にいだいていた概念とは打って変わって暗澹とした影がない。



 恋が芸術家を変えた。

 花嫁は公私とものパートナーではないか。



 評論家達にとどまらず、少しばかりインテリジェンスを気取った若者達の間でも、放縦な議論が飛び交っているようだ。



 無条件に信頼し、何でも話せる。そのくせ初恋を覚えたばかりの少女のように目を合わせるのもたゆたう人との夕餉の時間は、笑顔に溢れ返っていた。
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