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セルフヌード
第4章 光と闇
「悪いのはお前」
広栄がなつみのウェーブを描いた茶髪を掴んだ。
ついこの間まで有機質だった髪を切り落とした利き手。
あの感覚が、刹那なつみに押し寄せた。
「お前こそ災い」
…──未来も愛も呪われる。
「お前の母親がお前を産んでしまったために、私は幸せな家庭を望む権利を奪われた。あの女は私を見下し、いつも天使のような顔の裏で嗤ってた。……」
…──あの女がちょっと世間の気にいる器量だったというだけで。
「私はいつもあの女の下。旦那だけは姉より完璧な人を選んだわ。収入も、顔も、お前の母親が選んだ男に優ったの。誠実さもね」
…──それなのに!
がこっ…………
力任せに扉に叩きつけられた、なつみの身体がくずおれる。
「花嫁を呼びなさい。今度はお前も混じって良いわ。またお前の犠牲になる、可哀相な女への情けよ」
「……ほとんど交流のないスタッフです。多忙なので、呼んでも──…ぅぐっ」
広栄の足が、なつみの顔面を蹴りつけた。
「お前がギャラリーで話していた野暮ったい女。私が会いたいのはあの女」
「っ──…」
「私が可哀相でしょう?あんな人形が私の慰みになるんだから、お前だって本望でしょう?」
「…………」
そうだった。
この女に優る悲劇を背負った女はいまい。
光と闇の写真家と謳われながら、四年前、なつみは表舞台で名を馳せることを戒めた。
一定のキャリアとノウハウさえ積んでいれば誰にでも務まるような仕事を選んできながら、本能は、知られざる美を暴き、収めることを渇望していた。
そんな時に総子が持ち込んできた久しいチャンス。
代償を覚悟して受けた話だ。代償が美優になろうことも予感していた。