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セルフヌード
第5章 少女と被虐
ゴールデンウィーク明けの町は、もの寂しい。
爽やかな風は夏の息差しを連れて通りすぎるのに、気だるい気配がまばらな人足にまといつく。
身過ぎ世過ぎのいとまを縫う客達が、大型書店に出入りする。
彼らの倦怠をものともしないで淡々と業務をこなす元同級生は、伊達に販売員のキャリアが長いのではない。友人の無駄話に付き合う片手間、楽しげな手が売り場の隙間を新たな背表紙で埋めていた。
「そうだ。写真展行ったよ。孫にも衣装ってやつ?みーこ綺麗だった。鳥肌立っちゃった。良先輩との結婚式を思い出す」
「有難う。言ってくれれば私、近くまで行ったのに」
「良いの。ああいうの滅多に行かないし、折角の機会だもん。一般客の特権で、ゆっくり観たかったんだ。ただ、みーこが最初どれだか分かんなくて、嶋入さんにこっそり訊いたんだけど。噂通り規格外の美形だね。話題性の半分は、顔じゃ──…ごめん」
「──……。ううん、はるこってば、未だに私に美人嫌いのイメージ……あったんだ……」
なつみとは、一週間、顔を合わせていない。
美優から連絡をとることも、なつみからメールや電話が寄越されてくることもなかった。
あの夜、美優は家に戻らなかった。良には泊まって帰るとメールを入れた。
インターネット喫茶にこもって、目蓋の裏にこびりついた残影を、笑えもしないバラエティ番組で拭いにかかった。
芸人達の浮かれた声、笑顔は、却って美優を追いつめた。
耳障りなテレビを消して、スマートフォンのデータフォルダを眺めた。
カメラアプリのクオリティを超えた無数の写真は、いつしか美優のセルフヌードをしのいでいた。
世界を薄紅が覆っていた頃、あの邸宅で馳走になった茶菓子を始め、二人で歩いた夕まぐれの町、美優の日常のひとひらに、誕生日の夜の公園の記憶──…なつみの撮った来し方は、美優を一晩寝かせなかった。
翌日になって家に戻ると、良が美優の腫れた目の理由(わけ)を詮索した。美優は、泣ける映画を観たのだと言って誤魔化した。