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セルフヌード
第1章 秘密の快楽
景気の良い音楽が、特売品やポイントアップキャンペーンのアナウンスを盛り上げていた。遠くに井戸端会議のざわめきや、泣く子供を叱る母親のヒステリックな声が聞こえる。
ベビーシートの備えてあるトイレの個室は、女二人が入っても、広々していた。
美優は嶋入なつみ(しまいなつみ)と名乗る女と、母娘でもないのに親子用の個室に入ると、歯も浮くような賛辞に食傷させられた。
なつみの話によると、彼女は昨日初めて美優のブログを知った。
帰宅して、寝支度の後、観たかったDVDも諦めて、一晩中ブログを閲覧していたらしい。バックナンバーを掘り返して、最古の記事に至った頃には、窓の外が明るくなっていたという。
「白さが衝撃的だったんだ。ただ白いってだけじゃないの。自然な白さ。甘ったるさと儚さとが一緒になったみたいな白さ。ところどころくすんでて、それが薔薇の粉末みたいで」
「ただの加齢じゃないですか。その人、きっと黒ずんでるだけなんです」
「その人?」
「貴女のハマッたブログの人が、私ではないと申し上げているのです」
女二人でトイレの個室に身を潜めて、自分は何をしているのだ。
美優は全ての怒りをなつみにぶつけん勢いで、なけなしの抵抗を試みた。
なつみは美優の投稿したバックナンバーから、美優の暮らす町を割り当てた。そして美優の常日頃の行動も。
だが、美優は個人が特定されるだけの情報は上げなかった。確かに、町は特定出来るかも知れない。それでも何千という人間の住む町に、美優本人まで割り出すのは神業だ。