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セルフヌード
第5章 少女と被虐
鳴らしたチャイムに返事はなかった。来た道に、総子の姿も既になかった。
スマートフォンを引っ張り出して、電話をかける。
「…………」
────…………
…………
呼び出し音が続くばかりだ。計算高い、美優を喜怒哀楽させるメゾの声が応じない。
「…………」
いつかの夜がデジャヴした。否、それとは違う胸騒ぎが美優を急かす。
美優は、門をくぐった。
「なつみ?」
軒先から呼びかけた。いくら広い邸宅でも、なるべく腹に力を込めて。
「なつみー」
──…………
美優は気が咎めながらも框を上がった。
記憶の残滓か、残り香か。
淡いブーケのフレグランスに絡めとられるようして、美優は扉の一つを開けた。
見慣れたリビング。
「ひっ──……」
少なくとも美優がいる時、いつもきらきらしたもので溢れていた空間が、変わり果てていた。視覚が現実としての処理を拒む。
「あ……ああ……」
真っ二つに割れた瓶。ガラスの破片が水に溺れてフローリングに散らばっていた。
星屑の散らばる赤い海に、なつみの倒れた姿があった。
白いシフォンの袖に滲んだ真紅。フローリングに流れた巻き毛が血液を含んで、赤黒いシルクになっていた。端正とれた顔は、化粧してあっても分かるまでには血色がない。長い睫毛が影を落とす、閉じた瞳は、びくともしない。