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セルフヌード
第5章 少女と被虐



「なつみ……?」


 美優は、ミネラルウォーターを含んだ血だまりから、糸の切れた人形を起こす。

「なつみ……」


 体温はある。

 だが、少しゆすってもその瞳が覗くことはない。


「嘘でしょ……うそ……」


 平気な顔を貫いていた方が、おかしかった。

 頭では分かっていたはずだ。分かっていたはずのことを、美優は認めたくなかった。



 なつみは美優を選んでくれた。

 一緒にいて、美優をどれだけけなしても、根底では全肯定してくれる。

 美優は、一生なつみの側にいる。友人に見限られても、良をいつか傷つけても、離れられなくなってしまった。


 この想いを、今更、なつみが否定するはずない。



「なつみ、…………なつみ!──……」


 怖い。怖くて仕方なくなる。眠っているのは美優の恋人の方なのに、美優こそどこか零下の奈落へ引きずりこまれてゆく。


「いや……違うよ………なつみ……っ、私だよ……メール……忘れてたなんて、酷いよ……」


 やだ……


 身体が動かない。


「起き、て──……起きてなつみ!嘘って言って!!見間違いだって……違うって…………こんな思いさせないでぇぇえええ!!……っ、……」





 泣きながら病院に電話をかけた。住所を吐き出すのにやっとだった。





 機能することを放棄したがる美優の目は、ローテーブルに、二人分の空いた湯飲みと古びた便箋を見つけた。救急車のサイレンが耳を掠めるまでの間、便箋の字を追っていた。







第5章 少女と被虐─完─
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