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セルフヌード
第6章 最愛
修造の手が、りののこめかみをやおら包んだ。
「わしはお前に惚れたのだ」
「──……、ご冗談を……」
「役員になってからというもの、わしが昔を語ったのはお前だけだ。……お前は、それでもわしを笑わなかった。何故だ?」
「──……」
来年、大学受験を控えた弟がいる。父親が役所にいられなくなれば、りのの不運が弟の将来にまで差し障る。
そう、理性はもっともな答えを備えていた。
だが、りのは泣いた。
同世代の子供達によるいじめという、孤独な少年時代を打ち明けた修造に代わって、生理的な涙が頬を伝った。
「自身の弱さに向き合って、乗り越えた人は、他人の痛みも理解出来る強さを持ち合わせます。貴方は乗り越えられました。貴方に不当な行為をした人達を、見返そうと……人一倍努力されました。魔が差された事実については、許されることではありません。けれど、貴方がなさりたかったのは、あのようなことではなかったのだと分かります」
裸を見られる羞恥はなくしていた。
りのは、修造の片手を握ってよわいの入った顔を見上げた。
「来月、暫く公務で日本を離れる。」
「──……」
「お前の気持ちがどうであれ、わしは家内に話をする。お前にフられてもわしは何もせん。答えは、戻るまでに考えておけ」
「…………」
少し前のことだった。彼の正妻、真知子の差し向けた男達に暴行を受けかけた時、修造は血相を変えてりのを助けた。
りのが帰り着けたのはなつみのお陰だ。それと同時に、りのはあの時、修造に覚えた特異な感情に戸惑っていた。
いとけない少女の胸をときめかせる漿果。
正気の沙汰ではない酸味が、りのの胸をおびやかしていた。