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セルフヌード
第6章 最愛



「困りま……」

「ぅおっ?!」

 いつかの朝がデジャヴした。

 男の一人の身体が傾き、ぎこちないスキップで美優を離れた。


「何だぁコラ?」

「なつみっ……」


 美優は男達の壁を分けて、季節外れの春風のごとく現れた恋人に寄り添う。


「こっちの彼女より百倍可愛いじゃんっ」

「お兄さんとお茶しよう。ねっ、それで今のはおあいこ!」

「うっせぇよ、さっさと行──…っ」


 男の手を制したやにわ、なつみの腕が覇気をなくした。


「っ…………」


 男が姫袖をねじ上げる。

 美優は身を固くして、なつみの腰にしがみつく。


「あれぇ?彼女降参?つーか顔色悪いよ。お兄さんのこと怖い?」

「遊んでそうな見かけして、男知らないんじゃねぇ?ほら、触りゃあ分かるって!」

「いやっ、……」

「何をしている!」


 男の手がなつみの身体に伸びかけるや、駅員が駆けつけてきた。


「くそっ」

「ジョークっすよ、ジョーク」


 男達がへらへら笑って、逃げるように立ち去っていった。


「大丈夫ですか」

「はい、……」

「…………」


 駅員が持ち場へ戻っていった。



 美優はふらつくなつみを受けとめ、もはやものの分別もつかない若い恋人の模倣をした。


「美優が公共の面前でデレてる。今日は雨かも」

「なつみ。……私は気にしないから、他の人、抱いても……」

「美優で足りてる。ってか、リア充すぎて発情している暇ないし」

「──……」


 背中にまといついたなつみの腕に、力がこもった。



 本意ないような表情を感じながら、美優は黒目を動かさない。

 恋人の体温を離れたがらない女の姿勢を貫いていた。
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