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セルフヌード
第6章 最愛
桜の匂いが世界を染めた。
『少女crater』を押し入れから引き出してはページをめくって、何度も泣いた。
なつみのくれたポートレートを眺めて、一人、性器に触れて声を殺した。
姫スタイルの洋服を抱き締めて、意思もない布の塊にキスをして、謝った。
美優は、ブロイラーの役目を終えた。
気構えていたより腹は痛まなかった。
良やたえの話によると、美優は号泣していたらしい。
だが美優の頭の中は、ようやっと恋人を探しに行ける自由を得られたことでいっぱいだった。
スマートフォンの新着メールに、なつみからのメールはなかった。
病院から家族三人で帰宅した五日後。
良は、その日も美優には至れり尽くせりしていた。
美優は良が買い物に出かけていくと、性別も甄別しかねる小さな娘を寝かせて、スマートフォンからインターネットに繋いだ。
なつみの名前を検索した。関連ワードに十ヶ月前のシンポジウムの記事があった。
件の協議で、都修造という市の役員がスピーチをした。
記事はそうした文面に始まり、修造、もとい美優も一度会ったことのある児童養護施設職員の雇い主の活躍ぶりを伝えていた。
だが、液晶画面の文面を目で追うにつれて、美優の目が次第に文字を識別できなくなっていく。
「あ……ああ……」
美優の鼓動が美優の自身の耳をおどかす。
突如乱入した現地の女が取材中の人気写真家を刺突。調べによると、女は都修造の慈善活動を報道する人間なら誰でも良かった、と話している。かの地域の貧民窟では未だ人身売買が行われており、女の娘は、かつてそれに関与した修造の犠牲になったと供述している。被害者の女性は意識不明の重体を負い、搬送先の病院でまもなく…………
頭の中で鳴り続けた警笛に背き、そこまで記事を読み進めると、美優はインターネットを切った。
良の一連の行動に、辻褄が合った。
記事の日付は、良が長期休暇をとり、美優からスマートフォンを取り上げたのと一致していた。
第6章 最愛─完─