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セルフヌード
第7章 喪失という残酷
* * * * * * *
かつて最悪の不実を犯した男を連れ立ち、広栄は一年以上あるじをなくした屋敷を訪っていた。
庭の桜は今年も見事に咲いていた。雑草だらけの足許に、薄茶の残滓がところどころ散らばっていた。
屋敷は姪の手に渡った時こそ底値に近かったというが、売れば相当の値がつくはずだ。
ただし、法が広栄の行動を妨げた。
居住者の死亡を証明出来るだけの材料が揃わなかったのだ。
「こうなったら金目のものだけでも持って行くわよ。不動産屋も馬鹿ばかり……あの女がくたばったのは、新聞にも載ったじゃない。だのに、あれだけだと本人の証明にならないだとか、光熱費がまとめて支払われているから動かせないとか……」
框に上がるや、鼻につくブーケの匂いがした。
大量の洋服に大量のサシェのフレグランスを染み込ませていた義理の娘は、相当羽振りが良かったはずだ。
広栄の幸福を踏みにじった女の娘──…死に顔を靴底でなぶるという希望が潰えた今、根こそぎ遺産をかき集め、面白可笑しく遊び暮らしでもせねば気が済まない。
老いた良人、健一は改心している。その昔、実の娘の裸体にまで男根を滾らせた淫蕩者は、今や無力な広栄の従者だ。
「思い出しただけでもぞっとする…………あの顔、こんなことになるのなら、生きている内に潰してやれば良かった」
広栄は寝室の引き出しを物色しながら、汗ばむ身体に舌打ちする。