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セルフヌード
第7章 喪失という残酷
なつみの顔は、姉の優美な可憐さを備えていながら、在りし日の健一の精悍さもあった。
人間を欺くだけの美しい容姿。
広栄はなつみを見る度に、姉の顔を思い出し、良人の裏切りを目の当たりにさせられたものだ。
「広栄、ここは無理だ。服とリボンしかない」
「なら別の部屋よ」
リビングの明かりをつけるや、ふとチェストが目についた。
こまごました人形やら雑貨やらがところ狭しと飾ってある猫脚の家具は、見たところ広栄の求めていた類のものが仕舞ってある感じはない。
だが、広栄の足は引き寄せられるようにしてチェストへ向かった。
白いシェルの小箱があった。
「…………」
十四年前に死んだ姉の形見だ。
「どうした、広栄」
「…………」
煮え繰り返る腸を宥め、広栄は小箱の蓋を開けた。
ムーンストーンのリングと、古い紙切れ。
鼻で笑いそうになった。
広栄は、おそらく虫酸も走るような偽善の文句が連ねてある、古い紙切れを開く。