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セルフヌード
第7章 喪失という残酷
時は流れ、姉は中高一貫の私立に進んだ。姉が高等部に上がって二年目、妹も同じ学校に入った。
たくさんの友人と休みごとに出かける姉は、平日も部活動や課外授業で忙しかった。
対する妹は、勉学に難航した。
姉は大して机に向かうこともなく有名大学の推薦枠に入り、妹はじきに両親にも尻を叩かれるようになりながら、毎年留年の危機に喘いだ。
姉は妹の勉強を熱心に見た。妹の字を褒め、ひたむきな姿勢を褒め、心から妹の努力に感服した。
姉に一流企業への就職が内定した春、妹は二流の私立大学に進学した。両親や親族は姉を祝うのに夢中になって、妹の進学をおざなりにした。
姉は毎日のように友人達を家に招き、夜中まで賑やかな時を過ごした。
妹は捗らないレポートを打ちながら、おりふし息抜きのために部屋を出た。偶然顔を合わせた姉の友人が一言言った。へぇ、妹さんって、絵理子にあんまり似てないね。
妹は姉を姉と呼ばなくなっていた。
劣等感。
混濁した激情を取り除くことに傾倒するようになった。
妹は化粧を覚え、高級な洋服を身につけることを覚えた。
就職先の税理事務所で、さる企業の次長を務める男と出逢った。
男の生まれや人となりが妹に審査されることはなかった。
姉の選んだ配偶者より整った顔。
そして肩書き、年収。
妹は映画から覚えた台詞を繰り返し、ドラマから学んだ仕草を倣い、男と幸せなチャペルに至った。
偽物のムーンストーンではいけない。プラチナの台座にきららく二カラットのダイヤモンドこそ、妹に幸福を確信させた。
確信は、まもなく絶望に変わった。
絶望。
そのために姉をそれまで以上に憎んだのだ。
憎むだけの権利があった。姉の産み落とした罪の証を毀す権利も。
「…………」
広栄は手紙を読み終えた。頰に水滴が伝っていた。
あれだけ娘を猫可愛がりしておきながら、残したのがただのガラスのがらくたか。そして、優しい妹のくれたムーンストーンを身につければ幸せになれる、と正気で書いた。
聡明だった姉の馬鹿な本性に、涙が出たのだ。