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セルフヌード
第7章 喪失という残酷
会いたい。
なつみに会えるなら何もいらない。
恋に恋しているのとは違う。
美優は、なつみがあんな言葉を残さなければ、今すぐ何もかも見切っていた。
生きることがこうも苦痛と初めて分かった。振り返ると本当に自己中心的だった。
なつみはもっと苦しんでいた。美優は何も知らないで、我欲をぶつけてばかりいた。
「私、なつみと付き合ってた」
「──……。……何言ってんだ」
「ごめん良くん。私彼女が好きだった」
「…………」
「今でも好き」
違う。良にだけは伝えてはいけない。
壊れてしまう。惜しくもないのになつみが守ってくれた、美優の日常。
だのに口がひとりでに動く。
「…………付き合ってたのか?」
「──……」
「ま、不幸中の幸いだ。これが男の友達相手なら、咲希も娘か分かったもんじゃなかっ──…」
ばこっ…………
ひじきの煮物が良の顔面に砕けて散った。
美優の手から離れたばかりのパックが床に落下する。
「最低……」
美優の中で、何かが急激に冷めていった。
一晩に何度でも達する美優を知らない男に、こんな侮辱を受けたくない。
なつみだけが知る快楽の壺──…そこに触れたこともない男に所有物のように扱われてたまるものか。
良は、我に返って美優を宥めた。
育児が大変なのは同僚に聞いて分かってたのに、そんなになるまで我慢させてごめんな。
美優は良の常套句を聞き流しながら、夕餉のほとんどを残した。