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セルフヌード
第7章 喪失という残酷



「あ……あ……」



 強烈な光の明暗にとりこめられた少女の、否、おそらく三十路に達して一年弱の女の写真が、美優の視界を邪魔する膜にぼやけてゆく。

 長い茶髪に見事な曲線を描いた肢体。被写体の顔はアングルと光とが甄別を妨げているが、見澄ませば、天然の睫毛はアイラッシュを装着しているくらい長く濃いのが分かる。小さな鼻先、犀利な輪郭、そしてあえかな耳を飾るのは、擦りガラスのリボンとスミソナイトのピンクのハート。



「…………」



 美優はもたつく指を急がせて、インターネットに繋いだ。



 稲田総子。



 最新の掲示板がヒットした。


「っ…………」


 美優と同じく発売と同時に『君へ』を買い求めた文化人達による議論の場に、総子自らの書き込みがあった。


 失われた二年間。

 総子自身は、今回の写真集を最後に、人物の撮影をやめること。毎週出した写真集に関しては、アシスタントが主たる仕事を務めたこと。二年前、シンポジウムで腹を刺され、瀕死に陥ったこと。…………



 美優はインターネットを切った。


 今一度、最新の写真集を見つめる。

 斜め後ろに背を向けて、胸の頂を腕に隠す、もの言う花。

 美優の知る彼女より、月の瑕疵は薄れていた。だが、特殊メイクをしたモデルではない。



 押入れの奥深くに隠しておいた衣装ケースを引っ張り出す。



 美優は、身につけていたものを全て脱いだ。
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