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セルフヌード
第7章 喪失という残酷




「お姉さん」


 ダージリンを聯想するメゾが聞こえた。

 アルコールなどほぼ流し込まない喉が奏でる音声は、くらくらさせる響きを含む。


「ちょっと良いですか?」


 頷いてもいないのに、女が真向かいに腰掛けた。


 美優が有無を示すより先に、女の指が器用にカップを回した。

 美優の口づけていたカップの縁から、こまやかなラメのかかった唇に、ダージリンが流れてゆく。


「…………」


 今日は熱々だ、と、悪びれもしない綺麗な顔が綻んだ。



「──……」



 端正整った顔立ちに、腰まである長い茶髪。美優なら袖を通すのも恥ずかしくなる──…だから、同じブランドでももう少しは暗い色を好んで着ている洋服で、女はめかし込んでいた。


 写真の中のモデルではない。もちろん稲田総子でもない。


 美優の愛した美人カメラマン。元隣人。


 そして──……。


「なつみ……」

「やっと会えた」

「…………」

「元気にしてた?」

「っ……、──……」



 言葉にならない想いが美優の目頭をつまんだ。


 感情という感情が涙に変わって溢れ出る。





 三分の一ほど減ったティーカップの水面が、安上がりの蛍光灯に照らされて、刹那銀白色の波を滑らせた。







第6章 喪失という残酷─完─
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