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セルフヌード
第2章 美しさという暴力
* * * * * * *
美優は、慣れないシートの傾きに背を預けていた。
すぐ隣の運転席に、花畑から抜け出してきた風采のファッションドール。流行りの歌謡曲が──ただし男のアーティストが依然として登場しない──流れるオーディオの上に、甘く爽やかなフレグランスを散らす星型のサシェが二つ、揺れていた。
美優が待ち合わせの駅に至ると、なつみは縷々と女達に振り返られながら、男達の引きも切らないちょっかいを、すました顔で黙殺していた。
近くに車を停めてあるから。
言うなりなつみは、美優のウエストに腕をまといつかせると、動く個室に押し込んだのだ。
「髪、巻いてるの?」
「みゆさんは下ろしてるんだね」
「…………」
「指輪も外してる。昨日はあったのに」
「…………」
美優は、右手の甲に薬指を覆った。
リアガラスを眺める振りをしながら、ハンドルを握るなつみをちらちら盗み見る。
星をとかした清澄な水に濡らしたような黒曜石の双眸に、潤沢の睫毛、たわやかな肉づきの犀利な頰は淡く色づき、小鼻の下に端正な唇、その横顔はあまねくパーツを最大限に引き立てており、ショーケースに並んだファッションドールも匹儔しない。
サーモンピンクのレースのボレロに白いタートルネックのカットソー。ボトムはタイダイ染めのキュロットスカート。こめかみには拳ほどの赤いリボンが飾ってあって、スワロフスキーのネックレスに桜のピアス、手首にはシュシュ。
美優なら買い揃えるのも恥ずかしいような品々を、なつみは当たり前に身につけていた。おまけに絵になっている。