この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
セルフヌード
第2章 美しさという暴力
「期待しろってことだよね」
「え?」
「みゆさん、少しは私に抱かれたいと思ってるでしょ」
「は?」
「昨日のダサーい格好とは大違い。あれはあれで可愛かったのに。お洒落してきてくれて。狼さんになっちゃうよ」
「──……、……」
美優は前方に向き直る。
なつみの計算高いメゾは、美優の心臓を抉り出して、丸裸にして呼び水に浸す。
胸の顫動は、ときめきだの劣情だのが、そそのかされてのことではない。
美優が認識していた現実と、真隣にある現実の差異。
大きく開いているからだ。
綺麗な女は化粧して、着飾って、男に微笑むものだろう。
自らハンドルを握る必要はない。無料で雇える運転手がいるものだろう。
「私は、一般人だから」
「知ってる。専業主婦でしょ」
「そうじゃなくて……っ」
美優は膝に拳を握る。紺色の花が皺を刻んだ。
「私はビアンじゃない。バイでもない。普通の女なの」
今朝聞いた親友の声を思い起こす。
良の笑顔を、手のひらを、言葉にせずとも抱き締めてくれたぬくもりを、美優は自ら暗示に囚われるようにして呼び寄せる。…………
「思いっきり少数派じゃん。みゆさん好き。やばいな、相手が君だとアブノーマルでも全肯定しそうだ」
「私がアブノーマルですって?」
「男しか愛せない性分が普通だって、言いきれるとこ。統計とったわけじゃないのに、ヘテロさんの口癖だよね。大丈夫。心から一般人に入るつもりなら、みゆさん、黙ってエロい身体、出しなよ」
「滅茶苦茶……」
まもなく車は、もの寂しいビルの並んだ小路に入っていった。