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セルフヌード
第2章 美しさという暴力


「期待しろってことだよね」

「え?」

「みゆさん、少しは私に抱かれたいと思ってるでしょ」

「は?」

「昨日のダサーい格好とは大違い。あれはあれで可愛かったのに。お洒落してきてくれて。狼さんになっちゃうよ」

「──……、……」


 美優は前方に向き直る。

 なつみの計算高いメゾは、美優の心臓を抉り出して、丸裸にして呼び水に浸す。

 胸の顫動は、ときめきだの劣情だのが、そそのかされてのことではない。

 美優が認識していた現実と、真隣にある現実の差異。

 大きく開いているからだ。



 綺麗な女は化粧して、着飾って、男に微笑むものだろう。
 自らハンドルを握る必要はない。無料で雇える運転手がいるものだろう。



「私は、一般人だから」

「知ってる。専業主婦でしょ」

「そうじゃなくて……っ」

 美優は膝に拳を握る。紺色の花が皺を刻んだ。

「私はビアンじゃない。バイでもない。普通の女なの」


 今朝聞いた親友の声を思い起こす。
 良の笑顔を、手のひらを、言葉にせずとも抱き締めてくれたぬくもりを、美優は自ら暗示に囚われるようにして呼び寄せる。…………


「思いっきり少数派じゃん。みゆさん好き。やばいな、相手が君だとアブノーマルでも全肯定しそうだ」

「私がアブノーマルですって?」

「男しか愛せない性分が普通だって、言いきれるとこ。統計とったわけじゃないのに、ヘテロさんの口癖だよね。大丈夫。心から一般人に入るつもりなら、みゆさん、黙ってエロい身体、出しなよ」

「滅茶苦茶……」



 まもなく車は、もの寂しいビルの並んだ小路に入っていった。
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