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セルフヌード
第2章 美しさという暴力
古びた扉には、魔法が隠してあった。
金銀、オーロラ、ホログラムブーケ──…とりどりの微粒子が不可視の光に馴化して、染料特有の幽香と絡み合う。
さすれば花蓮はメイクサロンの魔術師だ。
薬局の化粧品で装った顔を、美優はクレンジングオイルで落とした。
美優の素顔を花蓮は嗤わなかった。
獣医が動物を診断するのと同じことなのかも知れない。花蓮は美優に、乳液、下地、フェイスパウダーを、業務的に重ねていった。
終始、ムスクと薔薇のフレグランスが、美優を抱いた。
美優の畑を耕したような顔面が、透き通るような陶磁になった。
「目、閉じて下さい」
「…………」
花蓮の動作は休まらない。プラスチックケースの開く音、ブラシが染料を踊る気配さえ、美優に明るい法悦をもたらす。
柔らかな長毛が美優の眉と睫毛の間を掃く。しとやかな女の指の腹の質感が、目蓋をたたく。
初めて良に触れられた時の感覚が、ふっと蘇ってきた。
期待に潤う羞恥心。嬉しくて、怖くて愛おしくて。
心地好くて眠りに落ちかける片や、全霊で感じていたい官能が、睡魔とは異なる恍惚を美優にもたらす。
良いですよ、と、花蓮のささめきが美優の視界を開かせた。
鏡の中で、美優のまるで知らない女が、美優を見つめて瞠目していた。