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セルフヌード
第2章 美しさという暴力
「いかがです?普段あまりお化粧をされない方ですと、濃く感じられてしまうかも知れませんが、ナチュラルに、デートに相応しい仕上がりにしました」
「でっ、デー──…あの、この顔、どうやって……」
「簡単です。一重の方にはテープで矯正される傾向がありますが、私はアイラッシュをお勧めします。自然に目蓋を押し上げるので、手間なく左右の均等もとれて、マスカラいらずで睫毛も盛れる。結果的に自然な仕上がりになります。使い続けると癖がついて、本当に二重になった、という人もいるみたいです」
「…………」
「ハイライトで目許を明るく仕上げてみました。美優さんは元がお白いですし、シェーディングは一般的なコーラルやブラウンを避けました。チークとアイカラーをミックスしたんですよ。仕上げの唇はどうしますか?お勧めはピンクベージュです。美優さん、唇は綺麗な珊瑚色なので、薬用だけでも美しいかと」
「あ……じゃあ、薬用リップを……」
生まれ持った顔は変えようがない。
それでも中学生の頃までは、いつか、大人になればそこそこの女になれるのだろうと夢を思い描いたこともあった。歳月を重ねるにつれて、そうした幻想も潰えていった。
今や三十路も越えている。
「五も歳下の女に、本気で妬くなんて……馬鹿なことだと思ってました」
「なつみのことですか?」
「──……」
「彼女は特別。モデルも顔負けのナルシストだから輝いているだけなんです。たとえば販売員が、世界一センスの悪い洋服を売らなくちゃならなくなるでしょ。それでも、絶対お洒落なんだと確信を持って勧めれば、お客さんの目にそんな風に映ってくるものなんです。写真家で名前を上げたカメラマンのくせに、いらない才能身につけちゃってますよね。……自信が光に変わります。美優さんは世界一のお姫様なんですし、もっと楽しまないと、もったいないです」
「世界一の……お姫様?」
「なつみがあんなに焦ったのは、──」
「花蓮終わったー?」
美優が首を傾げかけた時、扉が開いた。
「っ……、み、ゆ、さん……」
史上最悪の顔が、見られる顔になっただけのことだ。
だのになつみは美優をダシに、友人の抜きん出た腕前を、砂糖と練乳と蜂蜜をいっしょくたに空費して褒めちぎった。