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セルフヌード
第2章 美しさという暴力
驚くほど澄んだ空気だ。意識しないところで溜まり積もった一切の淀みが、洗い流されてゆく。
高速道路を一つ抜けただけで、別世界のような町が広がっていた。
ハーブティーとオーガニック料理の専門店でランチをしながら、美優はなつみと互いの話を少しした。
「写真の仕事は、やりたいって考えていたわけじゃなかったんだ。昔は帰宅部で、特技もなくて。姫スタイルは好きだったし、雑誌はよく見ていたな。就活になって、初めて一般企業の厳しさを知って」
「そういう手に職の方が、狭き門じゃないの?」
「みゆさん怒るだろうけど、セクハラが悪質だったの。最終面接まで残れたとこの、三社中の二社なんて、下着の色を教えろだとか、体力のある身体か確かめさせろだとか。面接官を殴って帰った。顧問教授に相談したら、彼女、教授職の他に風景写真家と美術評論家の肩書きがあって、アシスタントをしないかって誘ってくれた」
「稲田総子(いなだふさこ)さん……」
ほのかなオレンジの清涼感が遠くに香る、オリーブオイルで潤沢になった美優の舌が、記憶して真新しい名前を乗せた。
「調べてくれたの?嬉しいな、私に興味あるんじゃない」
「違っ……偶然。そう、偶然」
「そういうことにしといてあげる」
ふわふわのシュシュ──…ウサ耳みたいなリボンがぴょこんと立ったなつみの片手が、美優の顔に伸びてきた。
優艶な指先が口許に触れる。
つい、と、なつみの質感が離れていくと、美優の真向かいにいる美女が、彼女自身の指先を舐めた。