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セルフヌード
第2章 美しさという暴力
「ん、美味し。またもらっちゃった」
「あわっ……」
美優はバッグに手を伸ばしかけて、思いとどまる。
「…………」
ホワイトソースがはみ出たくらいで、鏡を確認するなんて、どうかしている。
「みゆさんは?」
美優の目前に、なつみのコンパクトケースが開かれてきた。
狭い鏡の中を覗くと、美優のぽってりと厚い唇が、珊瑚に見えた。珊瑚に、ホワイトソースは残っていなかった。
「……ありがと」
「ボードゲーム部だったんでしょ。パートナー、その時の先輩だっけ。何で結婚に至ったの?」
「良くんがしようって言ってくれたの」
「訊きたいのは理由。女子が好きっていうイケメンってやつだったとか?」
「誠実で、優しい人。あと面白いかな」
声が、どこかで上擦っていた。ひとりでに迷路を彷徨っている。
美優は、心底はしゃいでなつみに良を自慢出来ない。
「ミスったね」
「え?」
「どうせ理由もなしに結婚したんでしょ。男のプロポーズなんて、自尊心を高めたいだけなんだから、ダメだよ。守らなくちゃな存在をこめ置くことで、自分という人生の主役を立てるの。安いじゃない。手取りをちょっと預けるだけで、夜伽までしてくれる、何の疑いもなしに旦那様ぁって、慕ってくれるメイドさんが出来るんだから」
「そんな、言い方……」
「気に入らない?」
「──……」
「性分なんだ。何で、大した取り柄も説明してやれない男のものなんだろうって。そんなやつなら、私の隣に移ったって、同じなんじゃないか。……みゆさんみたく素敵な人が目の前にいると、つい。気にしないでっ」
「…………」
文末をハートマークで締めたところで、水に流せるとでも思っているのか。
美優はスープを飲み干した。
冷たくなった液体は、甘く、苦く、たった一口で苦しいまでに胸を満たした。…………